アトム・エゴヤン監督作品レビュー一覧(旧ブログより)

格調高く見せる今はなき“火サス”!?
『秘密のかけら』(2005/12/28)

先日、テレビ朝日で放送された「M-1グランプリ2005」。
エンタの神様」とは違って本格派だけがその出場を許されるテレ朝屈指の好番組だけど、
おそらく、ボクを含めた関西圏以外に住んでいる人たちの中で、
ブラックマヨネーズ」の優勝を予測していたという人はほとんどいないんじゃないだろうか?
ボクが彼らの漫才を見たのはまだ名古屋に住んでいる頃の話だし、
今年はこれまでの流れからいって「笑い飯」か「麒麟」のどちらかだろうと踏んでいたので、
当日外から帰ってきて、ビデオでマズ彼らの優勝を知った時には本当に驚いてしまった。
でも、面白かった。それこそ震えるほどに面白かった。
練り込まれたネタに、安定したテンポとテンション。心地好く痛快な言葉廻しに声の高低のバランス。
審査員の大竹まことが彼らを評して言った、“オーソドックスの凄さ”。
2人の漫才の面白さはまさにこのひと言に尽きるとボクも思う。
いまだに“あるある”ネタや(「レギュラー」は好きだから除外)、
飛び道具みたいなキワモノ芸人がアイドル扱いされる中で(それはそれで面白い芸人もいるけど)、
ブラックマヨネーズの言葉の面白さを煮詰めたオーソドックスな笑いが、
“笑いのプロ”たちによって最大級の評価を受けたというのは、
昨今のお笑いブームに鉄槌を喰らわすぐらい意義のあることだと思うし、
なにりそれは、お笑いばかりではなく、映画にだって言えることなんじゃないだろうか…?

凝りに凝ったMTV調の映像や、センスをひけらかそうとヒネりまくった挙句空廻りを起こす脚本とか、
もうそんな映画が“新しい才能の誕生!”だのなんだのとモテ囃されるような時代はとっくの昔に終わっている!
映像はあくまで物語を豊かにするために機能するべきであり、
シンプルにこだわった脚本こそが映画に工夫とリズムを生む。
そういう意味で、今月同日に公開された傑作2本、『愛より強い旅』と『キング・コング』は、
ジャンルとしては天と地ぐらい違えども、目指す映画的な志はまったくと言っていいほど同質である。

とまぁ、自分で書いてて相変わらず無理に感じる展開だけど、
今回の映画には2人組の人気コメディアンというのが出てくるモンだからチョット「M-1」の感想も。
でも、“オーソドックスを極める”という意味では、この映画にも同じことが言えるんじゃないだろうか?

1972年、新進気鋭の若きジャーナリストのカレン(アリソン・ローマン)が、
15年前にTVで活躍していた人気デュオ、
“ラニー(ケヴィン・ベーコン)&ヴィンス(コリン・ファース)”が解散した真の理由について探り始める。
2人に接触したカレンは、調査を進める内に彼らの意外な素顔を知り、
そのキッカケとなった、ある変死事件の真相にしだいに肉薄してゆく……。

ハッキリいって、物語の粗筋そのものは今秋ついにその長い歴史に幕を閉じた2時間ドラマ、
「火曜サスペンス劇場」、もしくは“スナック火曜サスペンス劇場”(わかったアナタは“ビバリスト”!)程度のお話で、
そんな大昔のアメリカのTVの舞台裏になんて興味もなければ、
ましてや堕ちぶれてゆく芸能人の凋落ぶりなんてコッチは知ったこっちゃない。
だけど、これを撮った監督は、
ストリップ劇場の人間模様から、雪に閉ざされた田舎町の哀しいドラマに、壮大で重厚な歴史大作、
果ては世界的チェリスト、ヨー・ヨー・マのドキュメンタリーに至るまで、
まるでカメレオンの如く変幻自在にノージャンルな題材を手掛けるカナダの鬼才、アトム・エゴヤン。
だから、一見陳腐ともとれるこんな物語も、
エゴヤン流の傑出したセンスの映像と観る者を妖しい気分にさせるまるで催眠術のような語り口で、
人間の心の暗部という“はらわた”を否が応にも引きずり出す格調高いドラマに仕上げられている。
テイスト的には、本作は監督の名を世界に知らしめた傑作 『エキゾチカ』 に最も近いと思うけれど、
いずれにせよ、どんなにノージャンルで映画を撮ったとしても、
向けられる監督の、ヘビのような視線の矛先はいつも同じ……。
そんな独特の臭気を放つエゴヤン演出に、
ベーコンとファースのネチっこい演技が相まって、なんとも言えない暗さと重さが全篇に漂っている。
だからもちろん、一方の女優からは潜在的なエロスが引き出されて、
それに応えるべくアリソン・ローマンが渾身の体当たり演技で見せてくれている“濡れ場”も本作の観どころだ。
とにかくローマンが可愛い! そしてエロい!

彼女の、どちらかといえば“ロリ顔”が不必要に醸し出すギリギリのエロさが、
ほぼ確信犯的にコチラの欲情を絶え間なく煽ってくるから、
めくるめくうちに観客はドラマの陰部に引きずり込まれ自我を失う快楽を登場人物たちと共有することになる……。
やはりエゴヤン、おそるべし!

そしてラストに感じる消化し切れないダークな後味は、
クダラナイといいながらも芸能人の離婚会見なんかを興味津々で見てさらには酒の肴にしてしまう、
ボクたちTVやスクリーンの前の観客の渇いた欲望……。

この、ハリウッドにもヨーロッパにも類を見ない、
例えばうなじをペロッと舐められてゾワッとくるような皮膚感覚のエゴヤン・テイスト。
だけど、一度味わったらやみつきだ。

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アマンダ・セイフライドがちゃんと脱いでいるだけで上出来!
『クロエ CHLOE』(2011/06/02)

そうなんですよお父さん! まぁ一方のジュリアン・ムーアはまるでカメラがないかの如く脱いでくれる女優なので、
濡れ場になれば(濡れ場じゃなくたって)今回も確実に脱ぐと安心していたものの、どーせアマンダ・セイフライドは、
現在赤丸急上昇中の若手筆頭株だし、脱ぐといったってせいぜい“下乳”か“横乳”をチラっと見せる程度だろうと、
だけどそれでもいいやと思っていたんだけどそうじゃなかったんです!(まぁムーアと較べたらやっぱ控えめだけど)
というワケで昨日の映画サービスデーに観に行ったら、もう盛りも過ぎてチ○ポも何も勃たなくなったお父さん方と、
今やすっかり乾いたゾウキンみたくなってしまった奥さん方で(メチャクチャ言ってるよね)ケッコウな盛況ぶりだった、
『スウィート ヒアアフター』『アララトの聖母』といった秀作で知られるカナダの鬼才アトム・エゴヤン監督の最新作、
『クロエ』は、ファニー・アルダンとエマニュエル・ベアールが共演した2003年のフランス映画『恍惚』のリメイクだ。

映画は、夫に浮気の疑念を抱いたある女医が、夫の雄としての本質を知るべく高級娼婦を雇ってワザと誘惑させ、
その反応を報告させるというオリジナルのプロットを踏襲しているんだけど、それ以外は、オリジナルとかなり違い、
ムーア演じる女医の静止をムシしてセイフライド演じる娼婦が夫を次々と誘惑し、彼女の日常を浸食してゆくという、
ストーカー系サイコ・スリラー風味の仕上がりになっている。で、そうしたことで話の説得力はかなり弱まっているし、
ラストも超後味が悪いので、オリジナルが好きだという人はきっとこのリメイクには怒るんじゃないかと思うんだけど、
そこはそれ。個人的には娼婦の哀しみを狂気と紙一重に描いたあたりが『エキゾチカ』の監督作っぽくて好きだし、
だいたいセイフライドを脱がした時点で「エゴヤン偉い!エゴヤン偉い!」とせんだみつお状態だった。(わかるか?)
というワケで『クロエ』は、“映画に何を求めるか”で評価がまったく違ってくるそこがエゴヤン(?)って感じの1本だ。

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とにかく、すんごいカラダなんです!

『クロエ CHLOE』(2009年・カナダ=フランス=アメリカ/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/96分)
【監督】アトム・エゴヤン
【出演】ジュリアン・ムーア、アマンダ・セイフライド、リーアム・ニーソン、マックス・シエリオット
【配給】ブロードメディア・スタジオ/ポニーキャニオン
【5段階評価】★★★1/2☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ シャンテ1(銀座)
【鑑賞料金】1,000円(映画サービスデー)

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アトム・エゴヤンのミステリ劇場へ 、ようこそ。
『デビルズ・ノット』(2014/11/20)

およそ2ヵ月に及び20本以上の映画を観てきたラピュタ阿佐ヶ谷の好評企画「ミステリ劇場へ、ようこそ。{2014}」。
ラストの1本は“戦後最大の誘拐事件”と言われた“吉展ちゃん誘拐殺人事件”が題材の(詳しくは知らないけど)、
『一万三千人の容疑者』。事件の名前を知っているのみでそれが東京五輪を挟む頃の話とまでは知らなかった。
芦田伸介が当時の主任刑事に扮し事件発生から2年3ヵ月後の最悪の結末までが重厚なタッチで描かれてゆく。
とはいえかなり昔の話だし警察の捜査があまりにも頼りないので映画としてはとくに前半ダルく観ていたものの、
映画はやがて事件より事件に人生を狂わされた人々の群像劇の態になってズッシリした余韻に浸らせてくれる。
とくに、小山明子演じる母親に事件の結末を伝えるのが最後の仕事という芦田刑事の苦渋の表情にグッときた。
というより事件の決着からたったの1年しか経っていないのにそれを映画化する東映という会社がやっぱり凄い。

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対する犯人・小原保役は井川比佐志。

一方、現在公開中の『アララトの聖母』等で知られる鬼才アトム・エゴヤン監督の最新作『デビルズ・ノット』は、
コチラは全然知らなかったんだがドキュメンタリーにもなったことがあるらしい“ウエスト・メンフィス3”と呼ばれる、
1993年、アメリカのアーカンソー州ウエスト・メンフィスで3人の児童がにわかには信じ難い残虐な手口で殺され、
挙句、およそズサンとしか言いようのない警察捜査で3人の若者が犯人にされたという事件が題材のミステリー。
本作では芦田伸介にも負けない名優のコリン・ファースが事件に疑問を抱いて独自に捜査を始める探偵に扮し、
彼が捜査を進めれば進めるほど事件が複雑怪奇さを増してゆく様子がこの監督らしい緻密なタッチで綴られる。
なにせ経緯やその後どうなったかはわかっている事件ゆえ謎解きの面白さやカタルシスとはまるで無縁なれど、
その代わり事件全体を覆う閉塞感が見事に画面に描出されてなんとも言えないダークな気分に浸らせてくれる。

なにしろ3人の死体が発見される件や裁判などで使われる写真が本物かと思うぐらいに生々しいことこの上なく、
それが煽動されやすく排他的な人ばっかりという南部の掃き溜め的な雰囲気と相まって嫌な汗が滲むこと必至。
陰惨な猟奇殺人が起きるたびにホラーやヘビメタが人間に悪影響云々と言われるのは日本もアメリカも一緒で、
それに加え『一万三千人の容疑者』の頃から30年も経っているのに警察のトロさはまるで変わらないんだから、
こうした事件そのものにもウンザリだけどそれ以上に人間ってなんなんだろう?と実にやり切れない気持になる。
エゴヤンは社会派映画みたいに誰かを糾弾するなどせずただそんな人間社会の異様さだけを突き詰めるのだ。
そして映画が終わると普段は忘れているだけでこういう事件が実はそこらにゴロゴロあることに観客は気づく…。
それが本作の核心。『スウィート ヒアアフター』などと同様アトム・エゴヤンのミステリ劇場はやはり後味が悪い。

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エゴヤンの作家性を知らないと少しキツいかも?

『デビルズ・ノット』(2013年・アメリカ/カラー/5.1ch/シネマスコープ/114分)
【監督】アトム・エゴヤン
【出演】コリン・ファース、リース・ウィザースプーン、デイン・デハーン、ブルース・グリーンウッド、ミレイユ・イーノス
【配給】キノフィルムズ
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】新宿シネマカリテ1
【鑑賞料金】1,000円(映画ファンサービスデー)

「ミステリ劇場へ、ようこそ。{2014}」[9月21日(日)-11月22日(土)]@ラピュタ阿佐ヶ谷
『一万三千人の容疑者』(1966年・日本/白黒/88分)
【監督】関川秀雄(『ダニ』『かも』『新 いれずみ無残 鉄火の仁義』)
【出演】芦田伸介、小山明子、市原悦子、岸輝子、村瀬幸子、井川比佐志、松本克平、織本順吉
【製作】東映東京
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞料金】招待券

ナチのコスプレしたアイドルにも観てほしい! 『手紙は憶えている』短評

そしてあんなコスプレをさせて恥をかかせた秋元のブタ野郎を恨んでほしい!
(しかし無知は怖いというか彼女らも学校でナチスとか習ってないんだろうか)
それにしても面白かった!やっぱアトム・エゴヤンはこういう題材が似合う!
妻を亡くし自身も認知症を患っているアウシュヴィッツの生き残りの老人が、
ホームで知り合った共に収容所仲間の友人から託された手紙の指示にしたがい
かつて自分の家族を殺したナチスの男を捜し出し復讐するための旅に出る…。

冒頭からいろんな謎をはらみながら進む不穏な緊張感漂う異形のミステリー。
認知症の老人の復讐劇というだけで異様だがその展開はさらに異様で独創的。
途中ほぼ結末を明かしつつも名優クリストファー・プラマーの孤高の存在感と
皮膚の内側にゾワゾワと来るような演出でラストまで引っ張り厭きさせない。
老いも過去も決して美しくなど描かないエゴヤンらしいナチもの変種の傑作!
見事な95分! 邦題が手紙は“覚えている”じゃなくて“憶えている”なのもいい。

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“恨み忘れまじ”のエゴヤン節です…。

『手紙は憶えている』(2015年・カナダ=ドイツ/カラー/ビスタサイズ/5.1chサラウンド/95分)
【監督】アトム・エゴヤン(『エキゾチカ』『スウィート ヒアアフター』『フェリシアの旅』『アララトの聖母』『秘密のかけら』『クロエ』『デビルズ・ノット』『白い沈黙』)
【出演】クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ヘンリー・ツェニー、ディーン・ノリス、ブルーノ・ガンツ
【配給】アスミック・エース
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ シャンテ
【鑑賞料金】1,100円(映画サービスデー)

人生、うまくいかないことばかり。だけど… 『きっと、うまくいく』(旧ブログより 2013/05/25)

いや、それでもうまくいかない場合もあると思いながら、うまくいった時のことを想像して努力をつづけることが大事。
むしろ、うまくいかなかった時にこそ、その人の人間性は決まるんだと思う。因みにボクは1つうまくいかなかったら、
すぐにみんな諦めちゃう、“人生、諦めが肝心”と思っているタイプ。だって、執着すればする分、心は苦しいじゃん?
これすなわち“色即是空空即是色”の心。ボク、仏教徒ですから。好きな女のコにメールを送って返ってこなければ、
あぁ…オレはその程度なんだな、と思ってすぐにメアドを削除します。そこでケッ、女なんてよ!とスネたりしません。
スネてる間に他の女に興味を持つ方が愉しい。それを女としては物足りないなんて言われたこともあるけど知らん!
…全然違う話になってしまった。なんかせっかくの邦題を腐すようなことを書いている感じだけど、別にそうじゃない。
ズバリ傑作だったし、昨今の流行り歌にアホみたく溢れる「自分を信じて」なんて風に訳されないでホントよかった!

まぁボリウッド応援団長の我らがオーケンによれば決め台詞の訳は最初「兄弟、すべってよーし」だったそうだけど、
現在、公開中の『きっと、うまくいく』は、インドで歴代興収ナンバー1を達成したのをはじめ、世界中で大ヒットした、
感動の友情ドラマ。最近ようやくこうしたインド映画のヒット作が日本にも素直に入ってくるようになってうれしい限り。
インドの超難関理系大学で学ぶ↓写真の3バカトリオを主人公に、過去と現在を行き来する本作のテーマはズバリ、
今の日本じゃ想像もできないインド式超学歴社会への警鐘。とはいえ説教臭さはなく映画は笑いと涙のメガ盛りで、
友情の尊さや、自分らしく生きることの大切さをストレートに訴えてくる。いつもより歌とダンスを控えめに感じたけど、
テンションはやっぱり高く3時間弱全然飽きない。「♪ア~リズウェル」って「オール・イズ・ウェル」って言ってたのネ。
うまくいく…か。もっと軽い訳の方がよかったんじゃないかな? 近江商人の「三方よし」とか?(それじゃ意味が違う)

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インド最大の競争社会は映画界じゃ?

『きっと、うまくいく』(2009年・インド/カラー/5.1ch/170分)
【監督】ラージクマール・ヒラニ
【出演】アーミル・カーン、カリーナ・カプール、R・マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー
【配給】日活
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シネマート新宿2
【鑑賞料金】1,000円(会員デー)

映画みたいに印パの関係もきっと、うまく…いってほしい 『PK ピーケイ』

噂に違わず面白かった!…けど、今再びインドとパキスタンの関係が悪化し、
それがついに両国の映画界にまで及んでいる現状を考えると最高にハッピーなラストもちょっと複雑…。
でもまぁそれはともかくこういうインド映画がヒットするのは本当によろこばしい。
地球へやって来たものの宇宙船のリモコンを盗まれ帰れなくなってしまった宇宙人pkが、
みんなが拝んでいる神様に自分も頼んでリモコンを返してもらおうと奔走する物語。
ところがpkは無垢だから神様にもいろいろあることやそれぞれを信じる人々同士の微妙な関係などいっさい知らず、
結果ズケズケと宗教の矛盾に喰い込んでいってしまうのだ。
なにしろそんな日本人には想像もつかないストーリーがダイナミックで圧倒的!
映画はそんなpkと、留学先の海外でパキスタン人の恋人を失った傷心を抱えつつも、
pkをTVに出演させインチキ宗教家と対決させようとするインド人の女性TVマンとの交流を軸に進んでゆく。
一見はおバカなコメディを装いながら宗教のタブーに真正面から切り込む勇気はさすがインド映画!
pkがインチキ導師をねじ伏せるシーンは痛快かつ深淵の極みで、
彼が説く真の信仰のあり方は神の名の元に行われる不毛なテロをも徹底的に非難する。
その後に訪れる愛のクライマックスも他の国の映画ならえぇ~!?って感じだけど、
しかし本作の場合あの2人の関係にこそ印パ友好への願いが込められているから素直に感動。
逆にpkのジャグーに対する無償の愛はまるで古典映画のようでカセットテープのオチはちょっぴり気恥ずかしくもグッとくる。
ただ、『きっと、うまくいく』もそうなんだけどこの監督の映画はちょっと筋立が数学的すぎるというか余白に“詩”を感じないため胸をガッサガサに揺さぶられるという感じとは少し違うのが個人的にはもう一つ。
だけどこんな壮大な物語はインド映画にしか創れないしとにかく賑やかで2時間半全然厭きなかった!(800字)

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『PK ピーケイ』(2014年・インド/カラー/シネスコ/153分)
【監督】ラージクマール・ヒラニ(『きっと、うまくいく』)
【出演】アーミル・カーン、アヌシュカ・シャルマ、スシャント・シン・ラージプート、サンジャイ・ダット、ボーマン・イラニ
【配給】日活
【5段階評価】
【鑑賞劇場】YEBISU GARDEN CINEMA
【鑑賞料金】ポイント鑑賞い

そしてキアロスタミはつづく… 『シーリーン』&『10話』@「キアロスタミ全仕事」

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「キアロスタミ全仕事」

[2016年10月19日(水)‐27日(木)]@ユーロスペース(渋谷)
【鑑賞料金】1,000円(会員)

『シーリーン』
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いやもう案の定寝ちゃったけどそれは夜勤明けにつき寝ていなかったからで、
聞きしに勝るとんでもない映画だった。
“シーリーン”とは12世紀のイランの詩人ニザーミーによる悲恋ものの古典叙事詩らしく、
本作はなんとその映画化を客席で鑑賞している114人の女優の顔をひたすら映すだけという究極の実験映画。
とはいえいかにもみな確かに映画を観ている風だけどどう観てもそれはそういう態(てい)でつまりは全部お芝居。
泣きの場面らしいところじゃ誰もが涙するワリに聴こえてくる台詞や音はどうにも安っぽい。
でも、そんな女優の顔だけで90分を保たそうってんだからその発想には驚くばかりだし(しかも114人てキミ!)、
イラン映画にはお国柄いろんな“縛り”があるというのは周知の話だけど、
逆にそのオカゲでこんなブッ飛んだ前衛的作品を名のある巨匠が創っちゃうんだもの創作における自由とは果たしてなんなのかを心底考えさせられる。寝たけど。

『シーリーン』(2009年・イラン/カラー/92分)
【監督】アッバス・キアロスタミ( 『トラベラー』 『友だちのうちはどこ?』 『ホームワーク』 『クローズ・アップ』 )
【出演】ニキ・カリミ、ゴルシフテ・ファラハニ、ジュリエット・ビノシュ
【5段階評価】★★★☆☆

『10話』
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凄いなぁ。これがドキュメンタリーではなく“ドラマ”だなんてそれじゃ普段観ているドラマはいったいなんなのか?
DV撮影がもたらしたフットワークの軽さがキアロスタミ監督の作風にマッチするのは当然の理だと思うけど、
なによりその映像的趣向に引っ張られることなく語られるものこそがちゃんと面白いからつい見入ってしまう。
イランの首都テヘラン。1人の女性の運転する車に(タクシーかと思ったら違った)、
彼女の息子や妹や友だち、
見ず知らずの老婆や娼婦や結婚を間近に控えて悩む女性が次々と乗り込んできては様々な会話を繰り広げる。
設定だけなら今や誰でもマネできそうだけど、
それが映画として面白くなるか否かはやはりセンスと作家性。
饒舌な会話からちゃんと人物それぞれのドラマが浮かび上がりやがてそれがイランの今へと結びつくのだ。
真っ暗な車内で交わされる娼婦との会話はまるでサスペンスの雰囲気を醸し初めて見るイランの姿…。
逆に息子(役)アミンくんのエピソードは心から愉しくこれぞイラン映画の真骨頂!
ホントに面白かった。傑作。
追悼ということもあるだろうけど平日でも満席だったし、
本当にキアロスタミ監督は偉大でした。あらためて、合掌…。

『10話』(2002年・フランス=イラン/カラー/94分)
【監督】アッバス・キアロスタミ( 『そして人生はつづく』 『オリーブの林をぬけて』 『桜桃の味』 『風が吹くまま』 )
【出演】マニア・アクバリ、アミン・マヘル
【5段階評価】★★★★☆2