イケメンゴリラの次はイケメンオオカミ!? 『ワイルド わたしの中の獣』

これは面白い!ただ今大ヒット中の某盲目老人スリラーよりよっぽど面白い!
久々にドイツ人てやっぱ相当病んでるな…と、うれしくなるような映画だった。
よもやイケメンゴリラがあれだけ話題になり写真集まで出ちゃうぐらいだもの
こんなイケメンオオカミに女子が恋する話があったって、全然フシギじゃない。
つまらない職場と自宅を往復するだけの単調な毎日を送っている女性がある日
自宅マンション前の森で見かけた(見かける?)狼に魅入られ、なんと捕獲監禁。
飼うというよりまるで彼氏のように狼を愛し始め…。(当然部屋はめちゃくちゃ)
映画は、彼女がしだいに野生化してゆく様子をそれはエロチックに描いてゆく。

薄汚れ、臭そうになればなるほどエロくなってゆくヒロインが上司とヤッた後
机に脱〇しオフィスに火をつけるとか最高。自分の血を舐めさせる妄想も凄い。
クライマックスもちゃんと彼氏(狼)が彼女のために食事(鼠)を獲ってくるなど
暖かな愛の物語になるし彼女も実に幸せそうでこれぞクリスマスにぴったり!
ある意味、ストレス社会の癒しと処方箋を描いた寓話のようにも見受けられて
なにしろカルト化は必至! もう人間は進化しない。動物に還るしかないんだ。
こんな映画を若手女優と女性監督で創るドイツってなんと素敵な国なんだろ!
若干ウサギの扱いに胸が痛んだけどエロくて奇妙でホント面白かった。怪作!

wild

ドイツに過労死はないっていうけど
本作を観ると日本と似ている気も…。

『ワイルド わたしの中の獣』(2016年・ドイツ/カラー/97分)
【監督】ニコレッテ・クレビッツ
【出演】リリト・シュタンゲンベルク、ゲオルク・フリードリヒ、ザスキア・ローゼンダール
【配給】ファインフィルムズ
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】新宿シネマカリテ
【鑑賞料金】1,500円(クーポン)

幻想、戦争、また幻想… 『エヴォリューション』&『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』&『はるねこ』

『エヴォリューション』

これは面白い。てっきり『エコール』の少年版みたいな映画かと思っていたら
エイリアンや宇宙船が出てこないだけでひたすらおぞましいSFホラーだった。
「意味がわからない“のが”面白い」なんて頭デッカチな通気どり映画は大嫌い。
でもこういう「意味がわからない“のに”面白い」映画は映画にもよるが大好物。
少年と女性しか住んではいない、いずことも知れぬ謎の島で母親と暮らす少年。
しかし、そこは夜ごと彼らが人体実験のモルモットにされる異形の島だった…。
まるで原作ものみたく話は暗喩的で過去のSF映画の名作を彷彿とさせるけど、
通底する世界観はやはり『ミミ』『エコール』と同じで、この監督オリジナル。

個人的にこういう話は成長期には特有の、だんだん変容してゆく自分の肉体や
世界に対する漠然とした不安心理のメタファーなのかと思ったりするんだけど
そんな深読みをせずともなにしろヌメリ気のある映像が不気味ながらも美しく
ゾクゾクするように雰囲気が淫靡だから粗筋が「?」だらけでも全然厭きない。
そして併映の同監督の短篇『ネクター』は上映する回とない回があるようだが
これがまた意味不明なのにやたらエロ面白くてびっくり!(むしろ好みはコッチ)
ボクも女王様に塗りたくったあの蜂蜜舐め(よしなさい)ってぐらい美味しそう。
まさにネクター(甘い)な映画。ボクは女王様と中年だけのそんな島に住みたい!

evolution

旦那(ギャスパー・ノエ)の映画は嫌いだが
奥さんの映画は性に合うのかフシギと好き。

『エヴォリューション』(2015年・フランス=スペイン=ベルギー/カラー/スコープサイズ/DCP/81分)
【監督】ルシール・アザリロヴィック(『ミミ』『エコール』)
【出演】マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエ
【配給】アップリンク
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】アップリンクX
【鑑賞料金】1,000円(会員)

******************************************************************************************

『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』

第二次世界大戦前夜のチェコスロバキアから海外の安全な場所に里親を見つけ
その地に子供たちを疎開させる「キンダートランスポート」と呼ばれる活動で
669人のユダヤ人の子供たちをナチスの迫害から救い出したイギリス人実業家、
ニコラス・ウィントンの偉業と、生き延びたかつての子供たちを追った感動作。
前から楽しみにしていた作品だけど、しかし今この瞬間にもシリアの子供らを
世界が見殺しにしている状況を考えると、なんともいたたまれず逆に辛かった。
とはいえウィントン氏のことは初めて知ったし、“日本のシンドラー”と呼ばれる
杉原千畝を心から尊敬する身としてはやはり襟を正して観るべき1本であった。

感動的なのは氏が救った子供たちよりもむしろ救えなかった子供たちに対する
辛い贖罪の気持から、この事実をずっと妻にさえ言えなかったというところ…。
杉原も戦後、自分の偉業をずっと黙っていたというが真に偉大な人はみな同じ。
どうしたらこういう人たちの爪の垢を世界の指導者たちに呑ませられるのか?
不必要な再現ドラマやウィー・アー・ザ・ワールドみたいなクライマックスが
言っちゃあなんだが24時間TVっぽくてちょっぴり鼻白む部分もあるんだけど、
自分には何ができるか?を考えさせてくれる、いいドキュメンタリーだと思う。
今、この時にもシリアの子供を助けている人々の作品もいつか創られてほしい。

nickys-family

ただみんな状況やケースが違うのに
誰も彼も“どこそこのシンドラー”と
ひと括りにするのがどうにも違和感。

『ニコラス・ウィントンと669人の子供たち』(2011年・チェコ=スロヴァキア/カラー&BW/1:1.85ビスタ/101分)
【監督】マテイ・ミナーチュ
【出演】ニコラス・ウィントン、ジョー・シュレシンジャー、ヴェラ・ギッシング、ベン・アベレス、ダライ・ラマ14世、エリ・ヴィーゼル、クラーラ・イソヴァー、ミハル・スラニー
【配給】エデンポニーキャニオン
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】YEBISU GARDEN CINEMA
【鑑賞料金】1,000円(会員・2ポイント使用)

******************************************************************************************

『はるねこ』

いやぁ~いい具合にワケのわけらない映画だった。こんな映画久しぶりに観た。
粗筋を読んでもなんの話かサッパリだし、観ても人にどんな映画か説明できん。
喩えるなら町田康を片手に足立正生と七里圭の映画を同時に観たような気分?
もっと“アピチャッポン”風にスヤスヤしちゃう睡眠導入映画かと思っていたら
絶妙なところに歌やユーモアがぶっ込まれて賑やかだし音響設計も実に見事で
難解ながらに作者の思想も随所に感じる、いろんな意味で頼もしい映画だった。
今ドキこんなアナクロな映画を20代の若い監督が撮るというのがうれしいし、
それに胸を貸す田中泯やりりィや川瀬陽太といった、名優たちの存在感も素敵。
このテの映画にケチをつける時よく「オ○ニー映画」なんて言ったりするけど、
しかしこう“つながり”だの“絆”だのがチヤホヤされる糞気持悪い社会になると、
こんな映画こそ愛しいというか、人間の孤独を感じさせてくれて貴重に思える。
実際、本作はそこらの映画よりちゃんと社会や世界に目を向けている…と思う。
流行の“わかりやすい”に対抗して無残に負ける、こういう映画も時には好きだ!

haruneko

しかし何の話かよくわからなかった。

『はるねこ』(2016年・日本/カラー/85分)
【監督】甫木元空
【出演】山本圭祐、岩田龍門、赤塚実奈子、高橋洋、川瀬陽太、川合ロン、りりィ、田中泯、福本剛士
【配給】Miner League
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】ユーロスペース
【鑑賞料金】1,200円(会員)

この世界の片隅で憎しみに引き裂かれる恋人たち… 『灼熱』

ボクが旅した中では、チェコの次にクロアチアがビールの美味しい国だった…。
その昔、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボから夜行バスでザグレブに往き
半日滞在しただけですぐまたバスに乗りオーストリアへ往っちゃったんだけど
酒もメシも旨いしもっとゆっくり旅をすればよかったな…と、後で後悔した国。
最近しばし忙しかったんだが、一段落したら真っ先に観ようと思っていた映画。
素晴らしかった。いわゆるユーゴ紛争を題材とする映画に傑作・秀作数あれど
その系譜にまた一つ…。紛争ものというよりこれは『サラエボの花』と同じく
禍根を乗り越えるには“愛”しかないと謳う物語。題材は局地的でも普遍的な話。

熾烈、峻烈を極めたクロアチア=セルビア間の紛争を背景に、1991年、2001年、
そして2011年と、10年置きの3つの時代と3つのラブ・ストーリーが順に語られ
それぞれのメインキャラを同じ俳優が演じて、国際的にも高い評価を得た本作。
そんな新進気鋭の作家らしい青臭くも挑戦的手法からやがて浮かび上がるのは
この世界の片隅でただ愛し合い、人生を謳歌していた恋人たちがある時を境に
“たかが”属する民族が違うというだけで憎しみに引き裂かれてしまう不条理…。
第1部が最もやり切れないけど、しかしこんなことが今なお禍根を残すどころか
世界の片隅でこの瞬間にも起きているかと思うと、本当に人間とは何かと思う。

でも、本作はただ彼の地を襲った悲劇や今なお巣食う禍根を描くだけではない。
その先で“愛”は憎悪に勝ると、たとえそれが理想でも高らかにかつ静かに謳う。
そこがいい。この時代に高みからシニカルに絶望を描くだけの映画なんて厭だ。
同じ俳優が全部演じるという点も個々のキャラが全然違うから気にならないし
とくに弾けんばかりのボディがエロを超え力強い命を感じさせる女優が魅力!
久々に“原始、女は太陽だった”という言葉を彷彿とするそんな映画でもあった。
男が力で牛耳る世などトットと終わって、早くそんな時代に戻ればいいのに…。
同じ題材で20年前に公開された『ブコバルに手紙は届かない』と並ぶ秀作だ。

the-high-sun

91年篇をいちばん魅力に感じるのは
ボクが90年代好きだからだろうか?

『灼熱』(2015年・クロアチア=スロベニア/カラー/デジタル/5.1ch/123分)
【監督】ダリボル・マタニッチ
【出演】ゴーラン・マルコヴィッチ、ティハナ・ラゾヴィッチ、ニヴェス・イヴァンコヴィッチ、ダド・チョーシッチ、スティッペ・ラドヤ、トゥルピミル・ユルキッチ、ミラ・バニャツ
【配給】マジックアワー
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シアター・イメージフォーラム(渋谷)
【鑑賞料金】1,100円(会員)

国民の憂さを晴らしてくれる韓国映画は健康的! 『華麗なるリベンジ』短評

権力への鬱憤をスカッと晴らしてくれる韓国映画はやっぱり気持が好いなぁ!
今や韓国映画屈指の反権力顔と言ってもいい我らのファン・ジョンミン兄貴が
暴力も厭わぬあまり被疑者殺害の濡れ衣を着せられてしまった熱血検事を演じ
詐欺師カン・ドンウォンと手を組んで権力と闘う話が面白くないワケがない!
『さまよう刃』の刑事役とは全然違う悪辣イ・ソンミンも憎々しいばかりだし
掴みどころのないパク・ソンウンも妙味を出してなにしろ芝居が観応え抜群!

まるで気負わず腕慣らしでもしているかのようなイ・イルヒョン監督の演出も
複雑に込み入っている脚本を手早く捌いて2時間超えの長尺がアッという間。
正直そこがスマートすぎて逆に喰い足りないというかクライマックスに後少し
グッとくるものがほしかった気もするけどこれだけ面白ければまずは及第点!
上映前の2人の映像でもジョンミンはいかにもいい人で好感度さらにアップ!
もちろんドンウォンもいいしウゼぇ社会をブッ飛ばす韓国映画らしい快作だ!

a-violent-prosecutor

韓国のバディムービーはもはや鉄板!

『華麗なるリベンジ』(2016年・韓国/カラー/126分)
【監督】イ・イルヒョン
【出演】ファン・ジョンミン、カン・ドンウォン、イ・ソンミン、パク・ソンウン、シン・ソユル、ハン・ジェヨン、キム・ウォネ
【配給】ツイン
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シネマート新宿
【鑑賞料金】ポイント鑑賞

創り手の情熱と観客のエールと劇場の真心で映画はここまで壮大になる! でも… 『この世界の片隅に』短評

よく大切な何かを表現する時に「かけがえのない」という言い方をするけれど
それをここまで真綿に水が沁み込むように感じさせてくれる映画は初めて…。
と言いつつ最近本作と同じ印象を得たのが山形ドキュメンタリー映画祭で観た
イラク戦争開戦前の市井の人々の素朴な日常を描いた『祖国―イラク零年』。
この映画でもかけがえのない日々が戦争に蝕まれてゆく過程が痛ましかった。
そんな風にドキュメンタリー映画を連想したのもそれだけ本作が普遍的な証。

とにかく戦争中の庶民の暮らしを肌理細かい丁寧なタッチで素晴らしく描いた
要は“それだけ”の映画かと思っていたら何もかもがそれ以上に面白くて驚き!
映画としてまずは存分に笑わせ驚かせながら日常が戦争に侵されてゆく感覚を
ここまでリアルに体感させるんだものもう本当に凄いとしか言いようがない。
のんの演技も完璧のひと言で苛酷な現実を生きる役柄との違和感が微塵もなく
もはやその声をずっと聴いていたいと思うほど映画を包み込んでいて圧倒的!

いろいろ悲しかったと思うけど、あの若さで早くもTVドラマと映画の双方に
後まで語り継がれる代表作を持っている女優なんて彼女以外に今誰がいよう?
何気ない日常の描写にこそ涙腺を刺激され、生きている実感をかみしめる…。
昨今の世界を取り巻く状況にまったく希望を感じられなくなっていたんだけど
ようやく自分にもまだできることがあるかもしれない…とそんな気になれた。
ありがとう。この歪んだ世界の片隅にこんな素晴らしい映画を届けてくれて。

しかし、昨年の『野火』も然りで、こういう映画がクラウドファンディングや
自主製作でしか創れず、またメジャーなメディアで紹介すらされないこの国が
この国の映画を取り巻く状況が悲しくて悲しくてボクはとてもやりきれない…

kono-sekai-no-katasumi-ni

そして本作は女性にとても“色気”を感じる。

『この世界の片隅に』(2016年・日本/カラー/126分)
【監督】片渕須直
【出演】のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、牛山茂、新谷真弓、小野大輔、岩井七世、潘めぐみ、小山剛志、津田真澄、京田尚子、佐々木望、塩田朋子、瀬田ひろ美、たちばなことね、世弥きくよ、澁谷天外
【配給】東京テアトル
【5段階評価】★★★★★
【鑑賞劇場】テアトル新宿
【鑑賞料金】1,300円(日曜夜割)