彷徨える現代で“蛇”に吞み込まれないために… 『彷徨える河』短評

新鮮。本作は何がいいっていかにもこういう映画はフランスやドイツといった
欧州との合作が多かったりするけど南米だけで創られているのが素晴らしい。
そして内容もアマゾンの先住民をいわゆる“西洋目線”でやたら超越した存在や
意思やコミュニケーションの図り難い畏怖すべき対象として描くのではなしに
酒を一杯酌み交わしたくなるような等身大的人々として描いてるのが面白い。
要は明確なドラマがあって思っていたよりずっと取っ付きやすい映画だった。

1人の先住民と、彼が若き日と老いた日にそれぞれ出逢った探検家との物語。
二つが交錯するように描かれそこから南米先住民と西洋の歴史が浮び上がる。
時代が切り替わる時の演出が見事で濃淡のくっきりしたモノクロ映像も秀逸!
先住民目線で物語を描いているからと言ってありがちな文明批評とも異なるし
映画からはそれよりも目先の事象に囚われず世界の未知に想いを馳せんという
青臭くも清々しい思想が感じられる。それもそのハズ監督は1981年生まれ!

個人的にはもっと全篇にわたってアナコンダが観たかったし(あとワニとか!)
観ている内に頭がボォーっとしてくるようなトリップ・ムービーとも違ったが
壮大な世界観から“今”を生きるための教訓を得られるそんな深い映画だった。
カラマカテ氏と幻のヤクルナをキメながら世界の今後について語り合いたい!
どうやら世界はいよいよさらなる弱肉強食と分断の時代に突入したっぽいけど
そんな“蛇”には呑み込まれたくない…と、映画を観ながら頭の片隅で思った。

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“蛇の抱擁”という原題直訳の方がよくない?

『彷徨える河』(2015年・コロンビア=ベネズエラ=アルゼンチン/モノクロ&カラー/2.35:1/124分)
【監督】シーロ・ゲーラ
【出演】ヤン・ベイヴート、ブリオン・デイビス、ニルビオ・トーレス、アントニオ・ボリバル・サルバドール、ヤウエンク・ミゲ、ニコラス・カンチーノ
【配給】トレノバディレクターズ・ユニブ
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シアター・イメージフォーラム(渋谷)
【鑑賞料金】1,100円(会員)

そしてキアロスタミはつづく… 『シーリーン』&『10話』@「キアロスタミ全仕事」

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「キアロスタミ全仕事」

[2016年10月19日(水)‐27日(木)]@ユーロスペース(渋谷)
【鑑賞料金】1,000円(会員)

『シーリーン』
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いやもう案の定寝ちゃったけどそれは夜勤明けにつき寝ていなかったからで、
聞きしに勝るとんでもない映画だった。
“シーリーン”とは12世紀のイランの詩人ニザーミーによる悲恋ものの古典叙事詩らしく、
本作はなんとその映画化を客席で鑑賞している114人の女優の顔をひたすら映すだけという究極の実験映画。
とはいえいかにもみな確かに映画を観ている風だけどどう観てもそれはそういう態(てい)でつまりは全部お芝居。
泣きの場面らしいところじゃ誰もが涙するワリに聴こえてくる台詞や音はどうにも安っぽい。
でも、そんな女優の顔だけで90分を保たそうってんだからその発想には驚くばかりだし(しかも114人てキミ!)、
イラン映画にはお国柄いろんな“縛り”があるというのは周知の話だけど、
逆にそのオカゲでこんなブッ飛んだ前衛的作品を名のある巨匠が創っちゃうんだもの創作における自由とは果たしてなんなのかを心底考えさせられる。寝たけど。

『シーリーン』(2009年・イラン/カラー/92分)
【監督】アッバス・キアロスタミ( 『トラベラー』 『友だちのうちはどこ?』 『ホームワーク』 『クローズ・アップ』 )
【出演】ニキ・カリミ、ゴルシフテ・ファラハニ、ジュリエット・ビノシュ
【5段階評価】★★★☆☆

『10話』
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凄いなぁ。これがドキュメンタリーではなく“ドラマ”だなんてそれじゃ普段観ているドラマはいったいなんなのか?
DV撮影がもたらしたフットワークの軽さがキアロスタミ監督の作風にマッチするのは当然の理だと思うけど、
なによりその映像的趣向に引っ張られることなく語られるものこそがちゃんと面白いからつい見入ってしまう。
イランの首都テヘラン。1人の女性の運転する車に(タクシーかと思ったら違った)、
彼女の息子や妹や友だち、
見ず知らずの老婆や娼婦や結婚を間近に控えて悩む女性が次々と乗り込んできては様々な会話を繰り広げる。
設定だけなら今や誰でもマネできそうだけど、
それが映画として面白くなるか否かはやはりセンスと作家性。
饒舌な会話からちゃんと人物それぞれのドラマが浮かび上がりやがてそれがイランの今へと結びつくのだ。
真っ暗な車内で交わされる娼婦との会話はまるでサスペンスの雰囲気を醸し初めて見るイランの姿…。
逆に息子(役)アミンくんのエピソードは心から愉しくこれぞイラン映画の真骨頂!
ホントに面白かった。傑作。
追悼ということもあるだろうけど平日でも満席だったし、
本当にキアロスタミ監督は偉大でした。あらためて、合掌…。

『10話』(2002年・フランス=イラン/カラー/94分)
【監督】アッバス・キアロスタミ( 『そして人生はつづく』 『オリーブの林をぬけて』 『桜桃の味』 『風が吹くまま』 )
【出演】マニア・アクバリ、アミン・マヘル
【5段階評価】★★★★☆2