この世界の片隅で憎しみに引き裂かれる恋人たち… 『灼熱』

ボクが旅した中では、チェコの次にクロアチアがビールの美味しい国だった…。
その昔、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボから夜行バスでザグレブに往き
半日滞在しただけですぐまたバスに乗りオーストリアへ往っちゃったんだけど
酒もメシも旨いしもっとゆっくり旅をすればよかったな…と、後で後悔した国。
最近しばし忙しかったんだが、一段落したら真っ先に観ようと思っていた映画。
素晴らしかった。いわゆるユーゴ紛争を題材とする映画に傑作・秀作数あれど
その系譜にまた一つ…。紛争ものというよりこれは『サラエボの花』と同じく
禍根を乗り越えるには“愛”しかないと謳う物語。題材は局地的でも普遍的な話。

熾烈、峻烈を極めたクロアチア=セルビア間の紛争を背景に、1991年、2001年、
そして2011年と、10年置きの3つの時代と3つのラブ・ストーリーが順に語られ
それぞれのメインキャラを同じ俳優が演じて、国際的にも高い評価を得た本作。
そんな新進気鋭の作家らしい青臭くも挑戦的手法からやがて浮かび上がるのは
この世界の片隅でただ愛し合い、人生を謳歌していた恋人たちがある時を境に
“たかが”属する民族が違うというだけで憎しみに引き裂かれてしまう不条理…。
第1部が最もやり切れないけど、しかしこんなことが今なお禍根を残すどころか
世界の片隅でこの瞬間にも起きているかと思うと、本当に人間とは何かと思う。

でも、本作はただ彼の地を襲った悲劇や今なお巣食う禍根を描くだけではない。
その先で“愛”は憎悪に勝ると、たとえそれが理想でも高らかにかつ静かに謳う。
そこがいい。この時代に高みからシニカルに絶望を描くだけの映画なんて厭だ。
同じ俳優が全部演じるという点も個々のキャラが全然違うから気にならないし
とくに弾けんばかりのボディがエロを超え力強い命を感じさせる女優が魅力!
久々に“原始、女は太陽だった”という言葉を彷彿とするそんな映画でもあった。
男が力で牛耳る世などトットと終わって、早くそんな時代に戻ればいいのに…。
同じ題材で20年前に公開された『ブコバルに手紙は届かない』と並ぶ秀作だ。

the-high-sun

91年篇をいちばん魅力に感じるのは
ボクが90年代好きだからだろうか?

『灼熱』(2015年・クロアチア=スロベニア/カラー/デジタル/5.1ch/123分)
【監督】ダリボル・マタニッチ
【出演】ゴーラン・マルコヴィッチ、ティハナ・ラゾヴィッチ、ニヴェス・イヴァンコヴィッチ、ダド・チョーシッチ、スティッペ・ラドヤ、トゥルピミル・ユルキッチ、ミラ・バニャツ
【配給】マジックアワー
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シアター・イメージフォーラム(渋谷)
【鑑賞料金】1,100円(会員)