極私的・2016年鑑賞映画ベスト10

『インサイダーズ/内部者たち』

す、すごい…面白すぎる!!! ビョン様最高! いや、これからは敬意を込め“ビョン兄貴”と呼ばせてください!
昨年末に 『ベテラン』 を観て以来今年は年初から三隅研次にかまけ久しく韓国映画のことなど忘れていたけど、
2016年も世界でいちばん熱く燃え滾るような面白い娯楽映画を見せてくれるのはやっぱり隣の国かもしれない!
方やなり上がり、方や復讐を狙うドン底の検事とヤクザが手を組み巨悪に立ち向かうなんてなんと最高な物語!
最後の最後までハラハラする精度の高い脚本、顔の脂汗がコチラへ飛んできそうなほどギラギラした登場人物、
そして、過激ながらも抑制の利いたバイオレンスと突然炸裂するユーモアと生唾を呑むお色気の絶妙な匙加減。
ウ・ミンホなんて監督今回初めて聞いたけど、この緩急自在かつ腰の据わった天才的語り口はただ者じゃない!
イ・ビョンホン(いや!ビョン兄貴!)が名優なのはわかっていたがここまで彼の芝居に惚れ惚れしたのは初めて。
現実的にはどうにもならない歪んだ社会に対する熱い怒りを胸のスカッとするエンタメに昇華する、これゾ映画!
ついに現れた今年のベスト10候補! なにしろ傑作! 『生き残るための3つの取引』 『新しき世界』 の次はこれ!
あのヘドが出るなんて生易しいレベルじゃない権力者ドモの“チ○コ酒ゴルフ”は園子温監督が絶対マネしそう?
でも、ちょっとやってみたい。(よしなさい!) はぁ~ホント面白かったぁ~。(虚脱感…) 韓国映画はやっぱいいゼ。

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『ソング・オブ・ラホール』

もう最高! ボクがその昔、インドはシク教の聖地アムリトサルからワガ・ボーダーを越えラホールを訪れた時は、
とにかく、あの街は旅行者を狙った泥棒が多いらしいから気をつけろ!というのがバックパッカー間の約束事で、
しかし実際は決してそんなことはなかったんだけど、それよりもっと芸術の街だということを教えてほしかったな!
これはまさしくパキスタン版 『アンヴィル』! 伝統音楽に愛と人生を捧げてきた夢を諦め切れないおじさんたち!
本作は、“音楽は罪”と解釈する極端なイスラーム主義政権や、タリバンの影響で身の拠り所をなくしてしまった、
パキスタンの古典音楽の音楽家たちが、もはや瀕死寸前の伝統音楽を守るべくそれなら世界へ打って出ようと、
音楽的共通点の多いジャズに挑み奇蹟のNY公演を果たすまでの軌跡を追った音楽ドキュメンタリーの大傑作!
彼らがYouTubeに挙げたジャズの名曲「テイク・ファイブ」のカバーを聴いてしまったらもう、この映画の虜も同然。

それにインド、パキスタンを知る身としちゃシタールやタブラの音色を聴いただけでうれしくなってしまうんだけど、
どこを切ってもスーパーテクニシャンとは思えない“サッチャル・ジャズ・アンサンブル”の面々の味のある風貌と、
聴いた瞬間、目が点になる超絶的演奏とのギャップが最高でゆえにその不遇な音楽人生にも感情移入しまくり。
そしてそんな彼らがNYに往ったはいいもののビッグバンドとのリハが少しもうまくいかず(とてもシビアな舞台裏)、
さァどうなるのかと思ったら…もう“神が降りる”とはこんな時にいうんだとしか言いようのない、完璧な大団円…。
プロだねぇ~。さらには公演を大成功させ故郷へ帰ってからの彼らの姿がまた地味でいじらしくて涙ポロポロ…。
世界中が「分断」に向かいつつある今だからこそ、異なる音楽が愛し合い奏でるメロディには大きな意味がある。
とにかく必見! しかも9月にはサッチャルが初来日! 東京にいながらラホールへ往けるとはなんと贅沢なんだ。

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『歌声にのった少年』

ムリだ…堪えられなかった。劇場でこんなに泣いたのは久しぶり。お客さんが少なくてよかった。(よくねぇだろ!)
「世界は醜いけどあなたの声は美しい」 ホントに世界は醜いけどこういう映画を観ると希望はまだ棄てられない。
2013年にエジプトで人気の勝ち抜き歌番組で優勝し、アラブの希望の星となったパレスチナはガザ出身の歌手、
ムハンマド・アッサーフの実話を描いた、珠玉の子供映画にして胸が熱くなる青春ドラマにして最高の音楽映画。
これほど希望の星という言葉が似合う人もいないってぐらい、その物語はガザの現実が酷すぎるだけに感動的。
ハニ・アブ・アサド監督の奇をてらわない演出もストレートに胸を打ち、随所に彼の地の苦難を感じさせながらも、
そこをことさらには強めずそれだけはホントのアッサーフの歌声に平和への普遍的な願いを込めて説得力抜群。
クライマックスはわかっちゃいるものの当時の映像の効果も相まり実に比類なきカタルシスを体感させてくれる!
音楽で世界は変えられないかもしれないけどしかし文化は醜い現実と闘う最も強く美しい手段だと教えてくれる、
まさしく音楽つながりで 『ソング・オブ・ラホール』 と並ぶ本年ベスト入りの傑作! もう予告篇だけで涙が出る…。

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『淵に立つ』

凄い…凄すぎる。非の打ちどころがないだなんて容易に言うもんじゃないけどホントにないんだもの仕方がない。
こんな淡々としてるのに昂奮しすぎて息切れがしばらく止まらなくなるなんてとんでもない映画を観てしまった…。
ある平凡な家族の前に1人の男が現れたことでそれまでの日常が歪んでゆくというヘタをしたら退屈そうな話が、
こんなストレートに面白い超一級のサスペンスにして、胸を揺さぶられる超緻密な人間ドラマになってしまうとは。
今日びの赤裸々な映画よろしく過激な性愛描写や血がドバドバ流れるような暴力描写があるワケでもないのに、
一つ一つの場面に尋常ならざる緊張感が張り詰め、映画的磁力に溢れて一瞬たりとも目を離すことができない。
まるでカラーなんだけど昔の白黒の北欧映画や、『狩人の夜』 でも観たかと思うような後味悪くも抗い難い余韻。
今年の日本映画は確かに好調だけどここまでの映画的快感に酔える作品はまったく久しぶりという気がする…。

『クリーピー』 の香川照之さえ越える浅野忠信がなにしろ怪演で前半は彼の一挙手一投足に心を掴まれっ放し。
そして一気に時間が経つ後半も彼演じる八坂の“影”が物語を支配するかのような雰囲気で進むのがまた凄い。
ほかの役者も概ね好演ながら筒井真理子はとくによく彼女演じる章江は個人的に“人妻オブ・ザ・イヤー”決定!
とにかく、『クリーピー』 や 『葛城事件』 や 『ヒメアノ~ル』 以上にヘビーな話をある種の寓話性を漂わせながら、
赤裸々な場面をなしに描いて“何にすがればいいのかわからない”この社会の絶望感を表現しているのが偉い。
深田晃司監督の映画は初めて観たがこの人はきっと映画を徹底的に勉強した努力型の天才ではないかと思う。
ギャーギャー叫んでワンワン泣いてそれで“怒○”とか言ってるどこゾの邦画はこれを前に顔を赤らめるがよい!
単に面白い上に“業”について考えさせられるこれをベストに入れないなどもはや考えられないレベルの傑作だ。

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『この世界の片隅に』

よく大切な何かを表現する時に「かけがえのない」という言い方をするけれど
それをここまで真綿に水が沁み込むように感じさせてくれる映画は初めて…。
と言いつつ最近本作と同じ印象を得たのが山形ドキュメンタリー映画祭で観た
イラク戦争開戦前の市井の人々の素朴な日常を描いた『祖国―イラク零年』。
この映画でもかけがえのない日々が戦争に蝕まれてゆく過程が痛ましかった。
そんな風にドキュメンタリー映画を連想したのもそれだけ本作が普遍的な証。

とにかく戦争中の庶民の暮らしを肌理細かい丁寧なタッチで素晴らしく描いた
要は“それだけ”の映画かと思っていたら何もかもがそれ以上に面白くて驚き!
映画としてまずは存分に笑わせ驚かせながら日常が戦争に侵されてゆく感覚を
ここまでリアルに体感させるんだものもう本当に凄いとしか言いようがない。
のんの演技も完璧のひと言で苛酷な現実を生きる役柄との違和感が微塵もなく
もはやその声をずっと聴いていたいと思うほど映画を包み込んでいて圧倒的!

いろいろ悲しかったと思うけど、あの若さで早くもTVドラマと映画の双方に
後まで語り継がれる代表作を持っている女優なんて彼女以外に今誰がいよう?
何気ない日常の描写にこそ涙腺を刺激され、生きている実感をかみしめる…。
昨今の世界を取り巻く状況にまったく希望を感じられなくなっていたんだけど
ようやく自分にもまだできることがあるかもしれない…とそんな気になれた。
ありがとう。この歪んだ世界の片隅にこんな素晴らしい映画を届けてくれて。

しかし、昨年の『野火』も然りで、こういう映画がクラウドファンディングや
自主製作でしか創れず、またメジャーなメディアで紹介すらされないこの国が
この国の映画を取り巻く状況が悲しくて悲しくてボクはとてもやりきれない…

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『栄光のランナー 1936ベルリン』

何がオリンピック開催のメリットは国威発揚だそんな言葉今ドキ聞くとは思わなかったよオマエはナチスかボケ!
この映画でもオリンピック憲章が何を謳ってるかちゃんと言っとるだろうが豆腐の角で頭ぶつけて死んでしまえ!
もう腹立つ! …とまぁそんな気持もあったゆえかめちゃくちゃいい映画だった! 今年のベスト入り確実の傑作!
そして劇中にも登場するレニ・リーフェンシュタールのドキュメンタリー 『レニ』(これも大名作!)と一緒に観たい!
本作はナチス政権下で開かれた1936年のベルリンオリンピックで4つの金メダルを取るという偉業を成し遂げた、
アメリカ人陸上選手ジェシー・オーエンス(初めて知った)の雄姿を綴った今こそ観るべき胸アツ必至の伝記映画。
当時の緊張感漲る国際情勢と、レースの間だけは人種や地位から解放されるつまりは“10秒の自由”のために、
来る日も来る日も走り続けた彼の人生が見事相まった、まさに金メダル級のカタルシスを得られる人間ドラマだ。

映画はオーエンスと彼を支え続けた白人コーチとの友情を軸に進んでゆくんだけど、それ以上にグッとくるのが、
後半で描かれるナチズムに抵抗したがためのちに前線に送られたというドイツの走り幅跳びの選手との友情で、
そこじゃ最近話題となった“優生思想”もきちんと批判されているし、しかも最後もアメリカ万歳にはなっておらず、
80年前の話が差別や分断が当たり前と化しつつある“今”の世界の状況に向けて語られているのが素晴らしい。
正直「酷い!」っていうラストなんだけど少年との小さなやりとりがそれをわずかに救いもう涙腺は弛みっ放し…。
そして創り手が同じ映画作家としてレニに温かい共感を寄せているところも実によかった!(ぜひ 『レニ』 を観て)
そらスポーツだから1等賞目指してやるのは当然だけどそれ以上に大切なことがあるから4年に1回やるんだろ?
ホント、国威発揚なんてそんなもん掲げてやるくらいなら今からでも遅くはないオリンピックなんかやめてしまえ!

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『緑はよみがえる』

さ、寒そう…。いっそモノクロの方がよほど暖かみを感じられそうな、だけど、息を呑むほどに凄まじい映像美…。
第一次世界大戦下の北イタリア・アジアーゴ高原を舞台にイタリア軍兵士たちの苛酷な運命を描いた戦争映画。
その孤高の作家性においてまさに塚本晋也監督の 『野火』 と対をなす巨匠エルマンノ・オルミ監督の最新作だ。
直接的な戦闘シーンこそないが戦争の“地獄”とは本当にこういうものなのだろうと思わせる漆黒の静寂の中で、
ただいつ死ぬかわからない恐怖に怯える兵士たちの絶望だけが生々しく伝わってくるこんな映画は滅多にない。
先の見えない戦況に昂揚感などとっくに失せ、神も未来ももはや信じられず日に日に募るのは悔悟の念ばかり。
そして目の前の雄大な自然を見て人はようやく気づくのだ。自分たちはなんて愚かなことをやっているのか…と。

もちろん、彼らにそんな愚かなことをやらせているのは自分では決して戦場に行かない卑劣極まる権力者たち!
上映時間が76分と短めだからといって侮るなかれ。アンジェイ・ワイダと並ぶヨーロッパ最大の巨匠が醜い戦争、
そして過ちをすぐに忘れ去って同じことを繰り返す人間の愚かさに熱く静かな怒りを叩きつける途轍もない傑作。
最後に若き中尉が母への手紙にしたためる「人が人を赦せなければ人間とはなんなのでしょうか」という一文と、
監督がかつて出逢った羊飼いの「戦争とは休む事なく大地をさまよう醜い獣である―」という言葉が胸を打つ…。
本作を観た日はそのまま 『レヴェナント』 を観に行くつもりだったけどもう無理だった…。完全に打ちのめされた。
戦争に行かなくてもすむ時代に生まれて本当によかったと思う。そんな時代が決して終わらないように…。必見。

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『ソニータ』

ホント今年の音楽ものは傑作だらけだな。本作もまた 『ソング・オブ・ラホール』 や 『歌声にのった少年』 と並び、
音楽で世界は変えられないかもしれないけど、揺さぶることなら確実にできると心の底から思わせてくる大傑作。
ラッパーを夢見るイランに暮らすアフガニスタンの難民の少女が、女性が音楽を創ることに厳しい慣習を越えて、
自作の曲を世界に発信、ついにはアメリカへ渡るまでを追ったヘビーな話だけど希望に充ちたドキュメンタリー!
もはや生まれながらのラッパー顔に見えるその少女ソニータがスプーンをマイク代わりに自作のラップを披露し、
それに合わせてヒジャーブ姿の幼い女のコたちが愉しそうに踊るオープニングからもう心をつかまれること必定。
実はこの映画は8月の頭にNHKのBSで50分の短縮版が放送されているんだけど、そのカットされていた40分に、
世界の理不尽さや彼女がどれだけの困難と幸運を得て向こうにたどり着いたかが描かれ、何度も胸が熱くなる。

なにより本作がいいのはソニータのラップが純粋かつ抜群にカッコいいこと!(プロのアレンジを受けたとはいえ)
こんな世界の理不尽に対する怒りと祈りに充ちたラップを聴くのは初めて。(まぁ普段はラップに興味ないけど…)
ソニータの親兄弟や、イラン人の女性監督ほか彼女を支える周りの人たちとのドラマにもいろいろ考えさせられ、
排外主義が再び世界を覆いつつある今、いかにわかり合える者同士で手を取り合うことが大切かを教えられる。
ソニータの歌自体も泣けるけど、彼女の妹が姉の渡米期間が思いのほか長いと知って泣く件なんてもうムリだ!
ただ逆に彼女の存在がアフガニスタンにも知れ渡って家族が嫌がらせされないかとそれが少し心配にもなるが。
とにかく短縮版を観た時もめちゃくちゃ感動したけど全長版はもちろんそれ以上の感動! すごく勇気をもらえる。
ソニータが里帰りする件で映るアフガニスタンの風情も廃れているとはいえ旅情を煽られた。いつか旅がしたい。

sonita

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『エクス・マキナ』

90年代ミニシアター全盛期の頃だったら確実に今はなきシネマライズで半年はロングランしていたであろう映画。
いやぁーこれは面白いワ! 文句なしの傑作! どころか、久々に今年のベスト10に喰い込みそうな映画を観た!
もう、『スター・ウォーズ』 のようなタイプの作品に全然興味のないボクみたいな輩でも充分愉しめるSF映画だし、
知的だとか哲学的とかいうフレコミに身構えずとも難解さなどは皆無で“上品にいかがわしい”から絶対面白い!
ド派手な戦闘シーンもアクションもないただ人間とAIのカケヒキを描いただけの映画がこんなに面白いなんて…。
なにより、仄かな緊張感とともに全篇に漂う“エロチシズム”が素晴らしいし、スリラーとしての牽引力も確かなら、
人間の実存や感情の根源とは何か?という古典的なテーマも現代の重要な問題として深々と考えさせてくれる。
精緻な映像も無機質なものを美しく…というよりは産毛の1本1本までリアルに撮るような質感でしっとり艶かしく、
観客の安易な予想など裏切りつつも決して突き放すことなく様々な解釈を呼び起こすこういう終わり方も大好き。
娯楽性と芸術性をバランスよく併せ持った真に見事なSF映画としか表現のしようがない。本当に面白かった…!
あーボクも人里離れた山の中でエッチな体したAIと暮らしたい!(どちらかといえば痴女っぽいキョウコさん指名)
そして触んないけど“表情より下心を読み取ってもらってそれを言葉に出してもらうプレイ”を毎日したい!(変態)

exmachina

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『夢の女 ユメノヒト』

40年間、精神病院に入院していたものの震災で避難している内にとっくに完治していたことがわかった男・永野。
浦島太郎状態の彼はしかしただ1人忘れずにいた“初めての女性”に逢うため彼女の避難先の東京に向かう…。
『バット・オンリー・ラヴ』 で奇蹟の監督復帰を遂げた佐野和宏監督、もう1本の作品は大人の官能ラ“ヴ”ロマン。
もう大当たり…。『乃梨子の場合』 の監督なのである程度信頼はしていたけどよもやこれほど素晴らしいとは…。
なんとロマンチックで、人生の侘しさ、やるせなさに充ち、しかし切なく胸の温まる珠玉のラヴストーリーだろう…。
原発事故云々がストーリーに込められているのでそこがネックかと思っていたがそんなのはまったく杞憂だった。
むしろ、震災以降のこの国に漂うどこかオカしな空気をこんなに巧く物語に託した映画は稀なんじゃなかろうか?

もうファースト・ショットから胸がキュンとしてヤバイと思っていたけど、永野と西山真来が彼の駅で別れるシーン、
そして、初めての女性と再会してからの故・伊藤猛が“特別出演”を果たすカラオケのシーンでもう涙ボロっボロ。
2人がラブホテルの1室で想い出を作り変えるシーンの長回しは、マジで邦画史に残る屈指の名場面だと思う…。
どこか諦めを湛えながらもそれでも「人生は悪くない」と静かにしめ括るラストにコチラこそ心から「ありがとう」だ。
なにしろ一つ一つのシーンが愛おしくてたまらない、これゾ映画に人生を懸けている(きた)者たちの“愛”の結晶。
くしくも今ネットで日本映画について話題だけどどうかこういう小品を観ずに邦画はレベル云々と言うことなかれ。
間違いなく今年のベスト10選出は確実の傑作。ボクはこんな映画に出逢いたくて日本映画を観続けているのだ。

yume-no-hito

イケメンゴリラの次はイケメンオオカミ!? 『ワイルド わたしの中の獣』

これは面白い!ただ今大ヒット中の某盲目老人スリラーよりよっぽど面白い!
久々にドイツ人てやっぱ相当病んでるな…と、うれしくなるような映画だった。
よもやイケメンゴリラがあれだけ話題になり写真集まで出ちゃうぐらいだもの
こんなイケメンオオカミに女子が恋する話があったって、全然フシギじゃない。
つまらない職場と自宅を往復するだけの単調な毎日を送っている女性がある日
自宅マンション前の森で見かけた(見かける?)狼に魅入られ、なんと捕獲監禁。
飼うというよりまるで彼氏のように狼を愛し始め…。(当然部屋はめちゃくちゃ)
映画は、彼女がしだいに野生化してゆく様子をそれはエロチックに描いてゆく。

薄汚れ、臭そうになればなるほどエロくなってゆくヒロインが上司とヤッた後
机に脱〇しオフィスに火をつけるとか最高。自分の血を舐めさせる妄想も凄い。
クライマックスもちゃんと彼氏(狼)が彼女のために食事(鼠)を獲ってくるなど
暖かな愛の物語になるし彼女も実に幸せそうでこれぞクリスマスにぴったり!
ある意味、ストレス社会の癒しと処方箋を描いた寓話のようにも見受けられて
なにしろカルト化は必至! もう人間は進化しない。動物に還るしかないんだ。
こんな映画を若手女優と女性監督で創るドイツってなんと素敵な国なんだろ!
若干ウサギの扱いに胸が痛んだけどエロくて奇妙でホント面白かった。怪作!

wild

ドイツに過労死はないっていうけど
本作を観ると日本と似ている気も…。

『ワイルド わたしの中の獣』(2016年・ドイツ/カラー/97分)
【監督】ニコレッテ・クレビッツ
【出演】リリト・シュタンゲンベルク、ゲオルク・フリードリヒ、ザスキア・ローゼンダール
【配給】ファインフィルムズ
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】新宿シネマカリテ
【鑑賞料金】1,500円(クーポン)

幻想、戦争、また幻想… 『エヴォリューション』&『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』&『はるねこ』

『エヴォリューション』

これは面白い。てっきり『エコール』の少年版みたいな映画かと思っていたら
エイリアンや宇宙船が出てこないだけでひたすらおぞましいSFホラーだった。
「意味がわからない“のが”面白い」なんて頭デッカチな通気どり映画は大嫌い。
でもこういう「意味がわからない“のに”面白い」映画は映画にもよるが大好物。
少年と女性しか住んではいない、いずことも知れぬ謎の島で母親と暮らす少年。
しかし、そこは夜ごと彼らが人体実験のモルモットにされる異形の島だった…。
まるで原作ものみたく話は暗喩的で過去のSF映画の名作を彷彿とさせるけど、
通底する世界観はやはり『ミミ』『エコール』と同じで、この監督オリジナル。

個人的にこういう話は成長期には特有の、だんだん変容してゆく自分の肉体や
世界に対する漠然とした不安心理のメタファーなのかと思ったりするんだけど
そんな深読みをせずともなにしろヌメリ気のある映像が不気味ながらも美しく
ゾクゾクするように雰囲気が淫靡だから粗筋が「?」だらけでも全然厭きない。
そして併映の同監督の短篇『ネクター』は上映する回とない回があるようだが
これがまた意味不明なのにやたらエロ面白くてびっくり!(むしろ好みはコッチ)
ボクも女王様に塗りたくったあの蜂蜜舐め(よしなさい)ってぐらい美味しそう。
まさにネクター(甘い)な映画。ボクは女王様と中年だけのそんな島に住みたい!

evolution

旦那(ギャスパー・ノエ)の映画は嫌いだが
奥さんの映画は性に合うのかフシギと好き。

『エヴォリューション』(2015年・フランス=スペイン=ベルギー/カラー/スコープサイズ/DCP/81分)
【監督】ルシール・アザリロヴィック(『ミミ』『エコール』)
【出演】マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエ
【配給】アップリンク
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】アップリンクX
【鑑賞料金】1,000円(会員)

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『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』

第二次世界大戦前夜のチェコスロバキアから海外の安全な場所に里親を見つけ
その地に子供たちを疎開させる「キンダートランスポート」と呼ばれる活動で
669人のユダヤ人の子供たちをナチスの迫害から救い出したイギリス人実業家、
ニコラス・ウィントンの偉業と、生き延びたかつての子供たちを追った感動作。
前から楽しみにしていた作品だけど、しかし今この瞬間にもシリアの子供らを
世界が見殺しにしている状況を考えると、なんともいたたまれず逆に辛かった。
とはいえウィントン氏のことは初めて知ったし、“日本のシンドラー”と呼ばれる
杉原千畝を心から尊敬する身としてはやはり襟を正して観るべき1本であった。

感動的なのは氏が救った子供たちよりもむしろ救えなかった子供たちに対する
辛い贖罪の気持から、この事実をずっと妻にさえ言えなかったというところ…。
杉原も戦後、自分の偉業をずっと黙っていたというが真に偉大な人はみな同じ。
どうしたらこういう人たちの爪の垢を世界の指導者たちに呑ませられるのか?
不必要な再現ドラマやウィー・アー・ザ・ワールドみたいなクライマックスが
言っちゃあなんだが24時間TVっぽくてちょっぴり鼻白む部分もあるんだけど、
自分には何ができるか?を考えさせてくれる、いいドキュメンタリーだと思う。
今、この時にもシリアの子供を助けている人々の作品もいつか創られてほしい。

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ただみんな状況やケースが違うのに
誰も彼も“どこそこのシンドラー”と
ひと括りにするのがどうにも違和感。

『ニコラス・ウィントンと669人の子供たち』(2011年・チェコ=スロヴァキア/カラー&BW/1:1.85ビスタ/101分)
【監督】マテイ・ミナーチュ
【出演】ニコラス・ウィントン、ジョー・シュレシンジャー、ヴェラ・ギッシング、ベン・アベレス、ダライ・ラマ14世、エリ・ヴィーゼル、クラーラ・イソヴァー、ミハル・スラニー
【配給】エデンポニーキャニオン
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】YEBISU GARDEN CINEMA
【鑑賞料金】1,000円(会員・2ポイント使用)

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『はるねこ』

いやぁ~いい具合にワケのわけらない映画だった。こんな映画久しぶりに観た。
粗筋を読んでもなんの話かサッパリだし、観ても人にどんな映画か説明できん。
喩えるなら町田康を片手に足立正生と七里圭の映画を同時に観たような気分?
もっと“アピチャッポン”風にスヤスヤしちゃう睡眠導入映画かと思っていたら
絶妙なところに歌やユーモアがぶっ込まれて賑やかだし音響設計も実に見事で
難解ながらに作者の思想も随所に感じる、いろんな意味で頼もしい映画だった。
今ドキこんなアナクロな映画を20代の若い監督が撮るというのがうれしいし、
それに胸を貸す田中泯やりりィや川瀬陽太といった、名優たちの存在感も素敵。
このテの映画にケチをつける時よく「オ○ニー映画」なんて言ったりするけど、
しかしこう“つながり”だの“絆”だのがチヤホヤされる糞気持悪い社会になると、
こんな映画こそ愛しいというか、人間の孤独を感じさせてくれて貴重に思える。
実際、本作はそこらの映画よりちゃんと社会や世界に目を向けている…と思う。
流行の“わかりやすい”に対抗して無残に負ける、こういう映画も時には好きだ!

haruneko

しかし何の話かよくわからなかった。

『はるねこ』(2016年・日本/カラー/85分)
【監督】甫木元空
【出演】山本圭祐、岩田龍門、赤塚実奈子、高橋洋、川瀬陽太、川合ロン、りりィ、田中泯、福本剛士
【配給】Miner League
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】ユーロスペース
【鑑賞料金】1,200円(会員)

この世界の片隅で憎しみに引き裂かれる恋人たち… 『灼熱』

ボクが旅した中では、チェコの次にクロアチアがビールの美味しい国だった…。
その昔、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボから夜行バスでザグレブに往き
半日滞在しただけですぐまたバスに乗りオーストリアへ往っちゃったんだけど
酒もメシも旨いしもっとゆっくり旅をすればよかったな…と、後で後悔した国。
最近しばし忙しかったんだが、一段落したら真っ先に観ようと思っていた映画。
素晴らしかった。いわゆるユーゴ紛争を題材とする映画に傑作・秀作数あれど
その系譜にまた一つ…。紛争ものというよりこれは『サラエボの花』と同じく
禍根を乗り越えるには“愛”しかないと謳う物語。題材は局地的でも普遍的な話。

熾烈、峻烈を極めたクロアチア=セルビア間の紛争を背景に、1991年、2001年、
そして2011年と、10年置きの3つの時代と3つのラブ・ストーリーが順に語られ
それぞれのメインキャラを同じ俳優が演じて、国際的にも高い評価を得た本作。
そんな新進気鋭の作家らしい青臭くも挑戦的手法からやがて浮かび上がるのは
この世界の片隅でただ愛し合い、人生を謳歌していた恋人たちがある時を境に
“たかが”属する民族が違うというだけで憎しみに引き裂かれてしまう不条理…。
第1部が最もやり切れないけど、しかしこんなことが今なお禍根を残すどころか
世界の片隅でこの瞬間にも起きているかと思うと、本当に人間とは何かと思う。

でも、本作はただ彼の地を襲った悲劇や今なお巣食う禍根を描くだけではない。
その先で“愛”は憎悪に勝ると、たとえそれが理想でも高らかにかつ静かに謳う。
そこがいい。この時代に高みからシニカルに絶望を描くだけの映画なんて厭だ。
同じ俳優が全部演じるという点も個々のキャラが全然違うから気にならないし
とくに弾けんばかりのボディがエロを超え力強い命を感じさせる女優が魅力!
久々に“原始、女は太陽だった”という言葉を彷彿とするそんな映画でもあった。
男が力で牛耳る世などトットと終わって、早くそんな時代に戻ればいいのに…。
同じ題材で20年前に公開された『ブコバルに手紙は届かない』と並ぶ秀作だ。

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91年篇をいちばん魅力に感じるのは
ボクが90年代好きだからだろうか?

『灼熱』(2015年・クロアチア=スロベニア/カラー/デジタル/5.1ch/123分)
【監督】ダリボル・マタニッチ
【出演】ゴーラン・マルコヴィッチ、ティハナ・ラゾヴィッチ、ニヴェス・イヴァンコヴィッチ、ダド・チョーシッチ、スティッペ・ラドヤ、トゥルピミル・ユルキッチ、ミラ・バニャツ
【配給】マジックアワー
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】シアター・イメージフォーラム(渋谷)
【鑑賞料金】1,100円(会員)