なんだかんだ頑張れTIFF! 「第29回東京国際映画祭」

tiff2016

「第29回東京国際映画祭」
[2016年10月25日(火)‐11月3日(木・祝)]
TOHOシネマズ六本木ヒルズEXシアター六本木

①『ラブリー・マン』

今年の1本目はインドネシア映画―。小品らしくしみじみといい映画だった。
敬虔なムスリムの少女が4歳の時に別れた父親に逢うためジャカルタに行く。
でも、父親はヤクザのもと男娼として都会の混沌の中を孤独に生きていた…。
性的マイノリティやイスラームとジェンダーなどテーマ自体はかなりヘビー。
しかし映画は題材の内面には深く踏み込まず一風変わった父娘の一夜の物語を
ただ静かに見つめ続ける。ちょっと感傷的で口当たりがよすぎな気もするけど
ジャカルタの夜の風情が実に生々しく寂しげで、心優しい都会の童話みたいに
なっている。個人的にはドビュッシーよりアザーンの響きに心くすぐられた。

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『ラブリー・マン』(2011年・インドネシア/カラー/76分)
【監督】テディ・スリアアトマジャ
【出演】ドニー・ダマラ、ライハアヌン・スリアアトマジャ、ヤユ・アウ・ウンル
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ六本木ヒルズ3
【鑑賞料金】1,300円(前売一般)

②『舟の上、だれかの妻、だれかの夫』

2本目もインドネシア映画。でもコチラは『ラブリー・マン』とは少々異なり
やや作家映画的な短篇作品2本立。まずは海の美しいインドネシア東部の島に
1世紀前の不倫ドラマについて調べに来た女性とそこで出逢う青年との物語。
正直ただなんとなく観てるだけじゃ何を語っているのか全然よくわからない。
というより、ヒロイン役のマリアナ・レナタの黒ビキニの上にYシャツという
最強コンボが鬼のようにセクシーすぎて話がほとんど頭に入ってこなかった!
あれはズルい。何かのトラウマがあるワケじゃないけど監督は海が怖いらしく
そう言われるとストレートに自然の驚異を感じさせるそんな映画ではあった。

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『舟の上、だれかの妻、だれかの夫』(2013年・韓国=インドネシア/カラー/58分)
【監督】エドウィン
【出演】マリアナ・レナタ、ニコラス・サプトラ
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】同上
【鑑賞料金】同上

③『ディアナを見つめて』

つづいては『鏡は嘘をつかない』(TIFFでも岩波ホールでも未見)の監督作。
そして『ラブリー・マン』では娘を演じていたライハアヌンが一児の母親役。
ある日突然夫が第二夫人を娶りたいと言い出して戸惑う女性の深い葛藤を描き
そんな慣習に真っ向から異を唱えた物静かだけど意思のくっきりとした作品。
でも第二夫人を娶るからには男は二つの家庭に100%責任を負わねばならず
最後はけっきょく喰い詰めグチばかり言うこの夫にそんな資格実はないワケで
そういう意味じゃラストは奥さんの方が実は上に立っているようにも思えた。
実物の彼女は大変美しくあんな人が妻だったらコッチこそ第二夫にされそう!

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『ディアナを見つめて』(2015年・インドネシア/カラー/42分)
【監督】カミラ・アンディニ
【出演】ライハアヌン、タンタ・ギンティン、パンジ・ラフェンダ・プトラ
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】同上(上記作品と2本立)
【鑑賞料金】同上(上記作品と2本立)

④『ブルカの中の口紅』

『PK』のジャグーの妹がいつの間にやら大人の女性になっていてびっくり!
そしてコーンクナー・セーン・シャルマーがボクのいちばん好きなインド映画
『Mr.& Mrs.アイヤル』(2002)の頃とまるで変わらないことに二度びっくり!
基本的には艶笑コメディで語り口が軽快ゆえ時に吹き出しながら愉しめたけど
男としてはいたたまれない4人の女性の息苦しい日常を描くヘビーなドラマ。
タイトルに“ブルカ”と付くからにはもっとイスラーム的な話かと思っていたが
映画はより広く普遍的な女性の抑圧を描き、ブルカはその象徴的な意味合い。
タイプの違う4女性ということでレバノン映画の『キャラメル』も連想した。

なにしろ男がロクなもんじゃないんだけどかと言って男を貶めるワケではなく
4人がそれぞれ魅力的だから男でもしっかり感情移入できるのが素晴らしい!
彼女らの葛藤を自身の問題として捉える女性監督の視線はどこまでも誠実だ。
それぞれに苦難が降りかかるラストも一見重くいかにも救いがなさそうだけど
しかし“男で”幸せになったってそれを真の女性の解放とは言わないと思うので
ラストに4人集まって煙草をふかし笑い合い“何か”を共有するようなシーンは
この映画が誠の女性映画であることを示す切なくも力強い場面だったと思う。
ただインド全体の男尊女卑をブルカに集約してまた軋轢を生まないかが心配。

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『ブルカの中の口紅』(2016年・インド/カラー/117分)
【監督】アランクリター・シュリーワースタウ
【出演】ラトナー・パータク・シャー、コーンクナー・セーン・シャルマー、アハナー・クムラー
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ六本木ヒルズ9
【鑑賞料金】同上

⑤『ダイアモンド・アイランド』

これもいい映画だった。確かに全体的にはもう一歩!ってところはあるけれど
それでもついにこういう青春映画がカンボジアでも創られるようになったか…
という台湾や中国映画のニューウェーヴを観た時と同じうれしい驚きがある。
急激な経済発展の影で燻ぶるやり場なき、でも穏やかなカンボジア的青春像は
ホウ・シャオシェンやジャ・ジャンクーの初期作にも似たアジア的哀愁を醸し
元の撮影機材の問題か少し画質が悪いものの胸がキュンと鳴るよな場面満載で
リティ・パンの遺伝子を受け継ぎつつ新しい世代の息吹を感じさせてくれる。
女のコたちが妙に色っぽいのもよかった。またいつかカンボジアに往きたい!

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『ダイアモンド・アイランド』(2016年・カンボジア=フランス=ドイツ=タイ=カタール/カラー/104分)
【監督】デイヴィ・シュー
【出演】ヌオン・ソボン、ノウ・チェニック
【5段階評価】★★★★☆
【鑑賞劇場】同上
【鑑賞料金】1,500円(前売一般)

⑥『クラッシュ』

いわゆる“アラブの春”から2年後のカイロを舞台にした注目のエジプト映画。
2011年の革命でムバーラク政権を倒したのはいいけどイスラム主義を掲げる
次のモルシー大統領に反対する人々と支持派との軋轢で国は再び真っ二つに。
そんなデモの騒乱の中、双方の民衆が一台の護送車に次々と詰め込まれる…。
要は政治、宗教、男性、女性、様々な人が乗る護送車の中をエジプトの縮図に
その混沌をパワフルに描いた力作…ではあるんだけど正直ケレン味が強すぎて
自分たちはいつまでこんな不毛な対立をつづけるんだ!?という肝心のテーマが
少々置き去りにされていたような気がする。期待してただけにちょっと残念!

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『クラッシュ』(2016年・エジプト/カラー/98分)
【監督】モハメド・ディアーブ( 『Cairo 678』 )
【出演】ネリー・カリム、ハニ・アデル、タレク・アブデル・アジズ、アフマド・マレク、アフマド・ダッシュ
【5段階評価】★★★☆☆
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ六本木ヒルズ2
【鑑賞料金】同上

⑦『ヘヴン・ウィル・ウェイト』

素晴らしい!最後の最後にこんな傑作が観られて今年のTIFFはこれで大満足!
イスラム過激派組織の思想に“洗脳されていた”少女と“洗脳されていく”少女を
巧みに対比描きながら今やフランスのみならず世界が直面する問題を見据えた
日本も人ごとではなく今観るべき珠玉の社会派映画にして切ない青春ドラマ!
先のブルキニの話がいい例でフランスも頻発するテロを前にもはやなす術なく
結果、無意味な宗教弾圧に走るなどどんどん悪い方に傾いていっているけれど
映画は“問題はそこじゃない”と決して感情的になることなく極めて冷静沈着に
綿密なリサーチで得た少女らの体験を基にしながらその根幹を考察してゆく。

面白いのはそういう若者らの洗脳を解く活動を実際にしているムスリム女性が
本人役で出演しセラピーの過程を見せてくれること。それが実にスリリング!
そしてそこから見えるのは、問題を前にもはや無力な社会と大人たちの姿…。
最後の最後に全体像がわかるサスペンスフルな構成やゾッとする描写も見事!
社会性と娯楽性が同居していてこの監督は前の『奇跡の教室』も面白かったし
今フランスで最も注目すべき力ある作家と言ってもいいんじゃないだろうか?
こういう映画が創られる土壌がある分フランスはまだマシという気さえする。
あんな酷い政権をいまだ多くの人が盲信しているこの国の方がよっぽど心配!

というワケでチケット問題などいろいろあったが今年のTIFFは充実していた!

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『ヘヴン・ウィル・ウェイト』(2016年・フランス/カラー/105分)
【監督】マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール( 『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』 )
【出演】ノエミ・メルラン、ナオミ・アマルジェ、サンドリーヌ・ボネール、クローティルド・クロー、ジヌディーヌ・スアレム
【5段階評価】★★★★★
【鑑賞劇場】TOHOシネマズ六本木ヒルズ7
【鑑賞料金】同上